「速い解糖」と「遅い解糖」
この記事を読むと分かること
・解糖系とは?
・嫌気的代謝と好気的代謝
・解糖系に関与する「補酵素」
・乳酸と疲労の関係
・解糖系の抵抗因子
人間には、大きく3つのエネルギー供給機構が存在します。
①ホスファゲン機構
②解糖系
③酸化機構
この中でも、糖質を主なエネルギー源とする「解糖系」について徹底解説していきます。
解糖系を理解することで、エネルギー産生を最大化でき、スムーズな代謝を行うことができるようになります。
■解糖系とは?
解糖系を一言で説明すると、糖質(グルコース)からピルビン酸や乳酸を生成する代謝経路のことです。
糖質を代謝することで、体を動かすエネルギー源の「ATP(アデノシン三リン酸)」が作られます。
また、解糖系には、「速くATPを作れる機構」と「ゆっくりATPを作る機構」に分けられます。
◎速い解糖と遅い解糖
✓速い解糖
乳酸を産生しながらATPを作る。別名「嫌気的代謝」と言う。酸素を使わない代謝。
→ 無酸素運動
✓遅い解糖
ピルビン酸からアセチルCoAに変換して、クエン酸回路に送りATPを作る。別名「好気的代謝」と言う。酸素を使ってエネルギーを作る代謝。
→ 有酸素運動
◎糖質の代謝経路
参考:https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch2-2/keyword1/
グルコースからピルビン酸までの流れが「嫌気的代謝」と言われるものです。
①グルコース
↓
②グルコース−6−リン酸
↓
③フルクトース−6−リン酸
↓(ホスホフルクトキナーゼ)
④フルクトース−1−,6−ビスリン酸
↓
⑤グリセルアルデヒド−3−リン酸
↓
⑥1,3−ビスホスホグリセリン酸
↓
⑦3−ホスホグリセリン酸
↓
⑧2−ホスホグリセリン酸
↓
⑨ホスホエノールピルビン酸
↓
⑩ピルビン酸
ブドウ糖1つから、2molのATPが作られます。
そして、クエン酸回路の中で2molのATPが「好気的代謝」で作られます。
クエン酸回路で作られた電子は、電子伝達体に運ばれ、34molのATPが作られます。
◎速い解糖ほどエネルギーは少量しか作れない
糖質の代謝経路を見ると分かりますが、速い解糖(嫌気的代謝)で作られるエネルギーは、「速いけど少量しか作れない」という特徴があります。
クレアチンを材料にする「ホスファゲン機構」もそうですが、スピーディーな機構ほどATP合成の効率が悪くなります。
しかし、”数秒〜1分くらい”の運動で、爆発的なエネルギーが欲しい場面では、7〜8割が糖質からのエネルギーが使われます。
ですので、いかに解糖系のエネルギー供給をスムーズにできるかが、パフォーマンスの向上には重要なポイントになるのです。
»【関連記事】ホスファゲン機構を理解してエネルギー産生を最大化せよ
◎代謝には「補酵素」が必要
解糖系の代謝で、特に重要なのが、「③フルクトース−6−リン酸」から「④フルクトース−1−,6−ビスリン酸」に変わる過程です。
この過程での酵素反応では、「マグネシウム」を必要とします。
エネルギーを作るときは、「糖だけ摂っていればいい」と考えがちですが、ビタミン・ミネラルなどの「補酵素」も重要になるのです。
◎解糖系に関与する「補酵素」
繰り返しになりますが、エネルギーの材料の「糖」だけ摂っていても、効率良く代謝することはできません。
代謝をサポートする「補酵素」が必要です。
✓「代謝」に重要な補酵素
・NAD(ナイアシン)
・ビタミンB1
・ビタミンB6
・ビオチン
・パントテン酸 など
また、これら補酵素(ビタミン)が使われるためには「活性型」になる必要があります。
活性型になるために必要なのが「マグネシウム」「鉄」などのミネラルです。
ですので、運動パフォーマンスを高めたい人は、ビタミン・ミネラルは積極的に摂って欲しい栄養素です。
■乳酸と疲労の関係
「運動をすると乳酸が溜まって疲労の原因になる」
このようなことを聞いたことがあると思います。
しかし、乳酸は、疲労の直接的な原因ではありません。
◎乳酸は疲労の原因ではない?!
運動をすると乳酸が溜まる、ということは事実です。
しかし、今の科学では「乳酸は直接的な疲労の原因ではない」とされています。
ですが、「乳酸は直接的な原因にはならないものの、間接的には関係している」としています。
◎疲労の原因は「水素イオン」
乳酸が直接的な疲労の原因ではないなら、何が疲労の原因なのか?
疲労の原因は、「水素イオン」です。
運動をすると、乳酸が発生します。
この乳酸は、乳酸イオンと水素イオンの総称のことを言います。
つまり、「乳酸が増える=水素イオンも増える」ということです。
◎水素イオンが増えると体が酸性に傾く
水素イオンが増えると疲労を感じる理由は、体内のpHが酸性に傾くためです。
体内のpHが酸性に傾くことにより、筋出力が下がっていきます。
※pH:酸性かアルカリ性かを示す数値
◎pHが下がると筋出力が下がる理由
水素イオンが増えて、体内のpHが酸性に傾くと、筋出力は下がります。
なぜなら、筋肉が収縮するときは、「カルシウムイオンとトロポニンが結びついて、最終的に筋繊維が収縮しているから」です。
pHが酸性に傾いているときは、カルシウムイオンとトロポニンの結びつきが弱くなります。
つまり、乳酸が溜まって水素イオンが増え、pHが酸性に傾くと、筋出力が落ちて疲労の原因になるということです。
◎pHが酸性に傾くことにより酵素反応が悪くなる
体内のpHが酸性に傾くと、筋出力が落ちるだけでなく「酵素反応」も悪くなります。
代謝酵素、補酵素の反応が悪くなると、もちろん代謝が悪くなります。
つまり、ATPの供給スピードが落ち、ATPが足りない状態になり、疲労につながるのです。
■解糖系の抵抗因子
下記で紹介するものは、解糖系の働きを悪くしてしまう要因になるものです。
「運動パフォーマンスを上げたい」という人は、要チェックです。
◎抵抗因子と栄養学的アプローチ
✓グリコーゲンの枯渇
→ 筋グリコーゲン(400g)、肝グリコーゲン(100g)、血液中(10〜20g)を充足させる
✓インスリンの減少
→ アミノ酸、ビタミンC(1,000〜2,000mg)、亜鉛(12〜18mg)
これら”インスリンの材料”を充足させる
✓インスリン抵抗性(GLUT4の非活性)
→ マグネシウム(340〜370mg)、ビタミンD(5,000IU程度)、αリポ酸(200mg程度)、アルギニン(1,000〜2,000mg)、EGCg(400〜800mg)、EPA(1,000〜2,000mg)、亜鉛(12〜18mg)、βコングリシニン(2,000mg)
これら、”インスリン抵抗性を改善”する栄養素を摂取する
✓補酵素/タンパク質の不足
→ ビタミンやミネラル、酵素、インスリンの材料になるタンパク質(最低1〜1.2g/体重)の摂取
■まとめ
今回は、3つあるエネルギー供給機構のうち「解糖系」を解説しました。
「エネルギーを作るためには糖質だけ摂っていればいい」
このように思っていた人は、ビタミン・ミネラルも意識的に摂取してみてください。
ビタミン・ミネラルを充足させることで、エネルギー産生が最大化でき、運動パフォーマンスを上げることが可能できるかもしれません。
ぜひ、今回の内容を参考にしてください!
◎要点まとめ
要点まとめ
・解糖系には「嫌気的代謝」と「好気的代謝」がある
・解糖系をスムーズにするためには「補酵素」が必要
・疲労の原因は乳酸ではなく「水素イオン」
✓解糖系の抵抗因子
・グリコーゲンの不足
・インスリンの減少
・インスリン抵抗性(GLUT4の非活性)
・補酵素/タンパク質の不足
最後まで読んでいただきありがとうございます。
この記事が、あなたのお役に立つことができたのなら幸いです。