近年話題の「遺伝子栄養学」
この記事を読むと分かること
- 遺伝子栄養学の根本的な考え方
- 遺伝子によって生理反応が異なる理由
- 「DNA」「mRNA」って何?
いきなりですが、”小学生のとき”を思い出してみてください。
同じような食事、同じような活動量で”太っている人”、”筋肉質な人”など、さまざまな人がいたと思います。
これらは「ソマトタイプ」というもので語られることが多いです。
→ 関連記事「ソマトタイプとは?」
ソマトタイプは、”遺伝的要因”で決まります。
なので、この”遺伝子”によってアプローチを変えていく必要があるのです。
このような学問が「遺伝子栄養学」になります。
この記事では、『遺伝子栄養学の入門編』ということで、概念的なものを解説していきます。
■遺伝子栄養学って何?
遺伝子栄養学とは、『遺伝子レベルで、栄養摂取と生理学的な反応を紐解く学問』であり、予防医学の一端です。
体に何か症状が出てきたときに、自分の遺伝子にあった、栄養摂取やアプローチを考えるときの一つの手段として使われます。
最近は、自分の遺伝状態を知ることができる”遺伝子検査キッド”が簡単に手に入るようになりましたね。
ですが、元々は予防の一つとして使うのが遺伝子栄養学の考えだと、認識してください。
■遺伝子栄養学は”2つの視点”から考える
遺伝子栄養学は、2つの視点から考える必要があります。
- 摂取する”食材”の遺伝情報 → 栄養ゲノム学
- 摂取する”人間側”の遺伝情報 → 栄養遺伝学
遺伝子栄養学は、この両面を見る必要があります。
①栄養ゲノム学
栄養ゲノム学(Nutrigenomics):遺伝子的に見た栄養の機能性や影響を解析する学問
簡単に言うと、”食材側”から見た関係性を捉える学問のことです。
例として、「カロリー制限によって老化を遅らせる」
食事摂取量が人の長寿に関連する遺伝子に影響を与えるという研究などがあります。
これは2年前くらいの研究で、ここから「サーチュイン遺伝子」という言葉がメディアでも扱われるようになりました。
寿命を伸ばすサプリ「NMN」が流行ったのは、このあたりからですね。
最近は、「カロリー制限をすることによってアンチエイジングの効果がある」というのが、主流の考え方になってます。
②栄養遺伝学
栄養遺伝学(Nutrigenetics):個人が持つ遺伝子(塩基配列)の違いを分析して、各々に最適な栄養摂取や量を考察する学問
簡単に言うと、”人間側”から見た関係性を捉える学問です。
例:「脂質の代謝にまつわる遺伝発言が弱い」
人によって、特定の栄養に対して代謝の得意不得意があったり、アレルギーへの反応しやすさが異なるという研究などがあります。
たとえば、「脂質が体に合わないから、ケトじゃなくてローファットで減量したほうが良いよ」とかがそうですね。
■遺伝子によって生理反応が異なる理由
遺伝子によって生理反応が異なる、俗に言う「人によって違う」というのがあるのは、
『セントラルドグマによるSNP(スニップ)によって作れるタンパク質が異なるため』です。
これだけだと、何を言ってるのか分からないので、分かりやすく説明します。
体のほとんどは”タンパク質”で作られています。
タンパク質は、酵素となって活発に活動したり、ホルモンになって向上性を保ったり、筋肉になり物理的な刺激に耐えたり、などの役割を果たします。
しかし、人によって、”遺伝情報の順序”や”遺伝子の形”が違います。
ですので、人によって作れるタンパク質が違い、生理反応も変わってきます。
つまり、人によって『”作りやすいタンパク質”と”作りにくいタンパク質”が存在する』ということです。
なんとなく分かりました?
◎セントラルドグマ
セントラルドグマ:遺伝子発現/遺伝情報の伝達順序における基本概念
①DNAからmRNAに流れる
↓
②リポソームと結びつく
↓
③タンパク質になる
◎SNP(スニップ)
SNP(スニップ):遺伝子の多型性/塩基配列の違いを示す一塩基多型
塩基配列の違いの発生頻度は、100人に1人以上です。
そして、1つの塩基配列が異なるものを「SNP(スニップ)」と言います。
SNPが生じると、アミノ酸の設計図が変わってしまうので、作れるアミノ酸も変わります。
作れるアミノ酸が変わると、作れる酵素やホルモンが変わったり、筋肉がつきにくかったり、ヘモグロビンが作りにくかったりが起きます。
たとえば、ヘモグロビンが作りにくい場合、酸素を運ぶことができないので、有酸素性の運動が苦手ということになり、遺伝的に長距離運動に向いていないと言えます。
このように、SNPが生じると”先天的に作りにくいもの”が存在しています。
SNPを理解していれば、
- 先天的に作りにくいものは、積極的に摂取する
- 人より多く作れるものは、たくさん摂取する必要はない
このような栄養学的なアプローチが可能になります。
これが『遺伝子栄養学の根本的な考え方』です。
◎SNP(スニップ)の一例
皆さんがよく聞く、SNP(スニップ)の一例を紹介します。
UCP1(脂質代謝脱共役タンパク質)が多い人は、脂質を燃焼しやすいので、ケトジェニックの方が向いている。
逆に脂質が増えやすい人は、β3アドレナリン受容体が多くて、インスリンが正常に分泌し、感受性も高い。
なので、糖は代謝させられるけど、脂肪の燃焼が難しいみたいな人は、ローファットが向いている。
このようなものが、SNP(スニップ)を理解していると処方できる栄養学的なアプローチになります。
■細胞の役割とは?【DNA・mRNA】
最後に、細胞の役割について簡単に説明しておきます。
細胞の主な役割は”2つ”です。
- エネルギー(ATP)を作り出す
- 必要なタンパク質の合成
①のエネルギー(ATP)を作り出すのは、知っている人がほとんどだと思います。
ですので、②の必要なタンパク質の合成について解説します。
◎必要なタンパク質の合成【DNAとmRNAの関係】
タンパク質は、遺伝子の指示によって合成されます。
タンパク質が作られるときは、”設計図”が核の中にある遺伝子(DNA)に書かれています。
しかし、この設計図は重要なので、核の外には運べません。
そこで、設計図を外に運ぶために「mRNA」というものが存在します。
DNAは”二重螺旋構造”になっています。
しかし、mRNAは”一本鎖”です。
ですので、mRNAを核の外に運び、そこで「tRNA」というものと結びつき、遺伝情報が再現されタンパク質が合成されます。
☆遺伝情報の再現
①一本鎖(mRNA)を細胞核の外に運ぶ
↓
②リポソームと結びつく
↓
③tRNAと結びつき遺伝情報が再現
このように、DNAの情報をmRNAにコピーすることを『転写』と言います。
そして、コピーしたmRNAを使ってタンパク質を生成することを『翻訳』と言います。
■まとめ【これからの研究に期待】
今回は、遺伝子栄養学について解説しました。
遺伝子栄養学は、”2つの視点”から考える必要があります。
- 食材側から考える「栄養ゲノム学」
- 人間側から考える「栄養遺伝学」
栄養遺伝学はまだ新しい分野の学問ですので、今の段階ではこれだけ覚えておけば十分だと思います。
遺伝子検査キッドなども進化していくと思いますので、これからの研究に期待しましょう!
◎要点まとめ
最後に簡単にまとめておきます。
要点まとめ
- 遺伝子栄養学は「栄養ゲノム学」と「栄養遺伝学」がある
- セントラルドグマによるSNP(スニップ)によって作れるタンパク質が異なるから生理反応が人によって異なる
- DNAの情報をmRNAにコピーすることを『転写』と言う
- コピーしたmRNAを使ってタンパク質を生成することを『翻訳』と言う
最後まで読んでいただきありがとうございます。
この記事があなたのお役に立つことができたのなら幸いです。